オレンジロード~商店街恋愛録~
雪菜の実家は、いわゆる『お金持ち』で、雪菜は『お嬢様』というやつだった。
箱に入れられたように育てられた雪菜に自分の意思は許されず、親の敷いたレールの上でのみ生きていたし、きっと一生ずっとそうやって生きていくのだろうとも思っていた。
しかし、転機はハタチの冬に訪れた。
雪菜は当時、有名私立女子大学の2年生だった。
その日、サークルの忘年会と称した飲み会があったが、あまり遅く帰ることを許されていない雪菜は、途中でその席を抜けた。
慣れない夜の繁華街をひとりで歩いて帰っていたら、漫画のように変な酔っ払いに絡まれ、それを助けてくれたのがレイジだった。
雪菜は一瞬でレイジに心を奪われた。
でも、その理由は、危ないところを助けられたからだとか、レイジの顔がよかったからだとかでない。
レイジはひどく冷たい目をしていたから。
レイジはその頃、ホストだった。
「絵に描いたような悲惨な人生だった」と言っていた。
「だから別に、いつ死んでもいい」のだ、と。
実際、レイジはめちゃくちゃな生活をしていて、数々の女を抱き、酒と煙草のみを主原料として生きていた。
自殺未遂をしたこともあった。
生きることに意味を見い出せなかったのは、ふたり、同じだったと、今では思う。
だから、互いに惹かれ合うのは必然だったのかもしれない。
雪菜と付き合うようになり、レイジはホストを上がった。
しかし、交際が親に知られることになるのにも時間は掛からなかった。
父は鬼のような形相でふたりの付き合いを断固反対した。
それどころか――その所為もあってか、「雪菜が大学を卒業したら、しかるべき相手と結婚させる」とまで言ったのだ。
何度も説得したが、雪菜の想いは父には聞き入れてもらえなかった。
だから、雪菜はレイジとふたり、駆け落ち同然でこの町にやってきたのだ。