オレンジロード~商店街恋愛録~
レイジを愛しているし、だから家を捨てて選んだ今のこの状況に、後悔はない。
しかし、一方で、このままでいいのかという疑念は、ずっと付きまとっている。
「眠れないの?」
顔を向けたら、体を起こして煙草に手を伸ばしたレイジと目が合った。
「何か考え事でもしてる?」
「昔のことを思い出してたの」
「……昔のこと?」
「レイジと出会った頃のこと」
レイジは、何とも言えない顔をして、咥えた煙草に火をつけた。
炎が揺れる。
レイジの吐き出した煙が、行きつく場所もなく部屋の中を漂う。
「あの頃のレイジは、ろくでなしで、本当にどうしようもない人だった。生きてるのに死んでた」
「そうだね。でも、雪菜と出会えたから、俺は変わることができたんだ」
本当に、レイジは変わったと思う。
優しくなったし、口調なんて別人だ。
「もう死のうとはしない?」
「しないよ。雪菜がいてくれる限り、一緒に生きてたいと思ってる」
レイジの、柔らかい笑みの横顔が、月明かりに照らされた。
「俺には雪菜がいて、雪菜には俺がいる。それだけでいいじゃん」
レイジは、言いながら、雪菜のおでこにくちづけを添えた。
愛する人に愛される。
それは、これ以上ない幸せの形だ。
だから、雪菜は、やっぱりこれでいいのだと自分に言い聞かせ、少しの不安な思考を遮断した。