オレンジロード~商店街恋愛録~
『オレンジロード』はとてもいい商店街だ。
人の優しさがあたたかく、昔ながらの味わいと風情がある。
流れ流れてやってきたが、ここを選んで本当によかったと思える魅力がある。
しかし、嫌いで故郷を離れたわけではない。
あんなことがあったとはいえ、いつもふと、家族は今どうしているだろうかと気にしている自分がいる。
「雪菜ちゃん」
斉木夫人に呼ばれ、弾かれたように顔を向けた。
「ちょっとこれ、『渡辺写真館』まで届けてくれない?」
商店街の組合回覧板。
雪菜は「わかりました」と言ってそれを受け取り、店を出て斜向かいにある『渡辺写真館』に向かった。
「こんにちは。『斉木生花店』です」
ドアを開けて中に声を掛けると、少しして、店番をしていたらしい梓が出てきた。
「回覧板です」
「あら、ありがとう」
伯父の店の手伝いをしている梓は、バツイチの30歳だと聞いた。
梓は受け取った組合回覧板に目をやり、
「今度、寄り合いがあるのかぁ」
なんて、ぶつぶつと言っていた。
店の壁には客を撮ったものなのだろう、成人式の写真や家族写真などが並べられている。
どれも、当たり前だが、幸せそうなものばかり。
雪菜があまりにも写真に見入っていたら、
「何? 雪菜ちゃんも撮る予定ある? 安くしとくわよ」
「あ、いえ、そういうわけじゃないんですけど」