オレンジロード~商店街恋愛録~
慌てて否定した。

梓はそんな雪菜を見てくすりと笑い、



「ごめんなさいね。営業しちゃったみたいで」


雪菜はまた、「いえ」としか返せなかった。

梓も壁に並んだ写真に目をやり、



「どれもいい写真ばかりでしょ」

「はい」

「あの一番右の家族写真はね、私が小さい頃に伯父が記念に撮ってくれたものなの。私のお気に入り」


写真の真ん中には、よそ行きのドレスを着ているのに、なぜか不貞腐れたような顔で写る少女が。

その後ろには、そんな少女を笑って見ながら、寄り添って佇む夫婦の姿があった。



「あの写真を撮った後、父が亡くなってね」

「えっ」

「母も3年前に亡くなったし。だから、これが私の最初で最後の家族写真なの」


なんと言えばいいのかわからなかった。

顔をうつむかせた雪菜に、梓は、



「あの頃の私はね、両親が――特に父のことが、好きじゃなかったの。いつも忙しさにかまけて私を放ってるくせに、こんな、これ見よがしに仲よし家族を装ったみたいな写真を撮るなんて、って」

「………」

「でもね、父が亡くなったのは、病気が原因だったの。私のために、家族のために、一生懸命働いてたから、病院にも行かずに、気付いた時には手遅れになってて」

「………」

「そうとも知らずに私は父を嫌ってた。父が死んでからそんなことに気付いても遅かったんだけど。後悔してもしきれないわ」


父が死んでから後悔しても遅い。

梓の言葉がずしんと雪菜の胸に落ちる。



「雪菜ちゃんのご家族は?」

「今は離れて暮らしていますが、両親と兄と姉が」


気付けば言葉にしてしまっていた。


写真の中で生きる梓の父を見る。

全然、違うはずなのに、なのに厳格な自分の父を思い出してしまった。
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