オレンジロード~商店街恋愛録~
「いいなぁ。私はひとりっこだったから、兄姉のいる雪菜ちゃんが羨ましいわ」

「でも、比べられる対象がいるというのは、それはそれで大変ですよ」


兄はとても優秀な人だった。

両親はそんな兄に期待していて、兄もそれに応えるように励んでいた。


だからって、雪菜は、兄がそれでいいならいいと思っていた。




しかし、姉は奔放な人だった。



家が窮屈だと言い、反発ばかり。

一番下の雪菜は、だから姉のようになるなと、兄のように真っ直ぐに進めと、口うるさく言われて育てられた。


姉のことは好きだったが、雪菜は、同時に、いつもその生き方を羨ましく思っていた。



「難しいですよね、家族って。血は繋がってるのに、心はそれぞれ別のところにある。わかり合えないことばかりです」

「そりゃあ、だって、一番初めは、他人同士が結婚して家族の形を作るんだもの。わかり合えなくて当然よ」


肩をすくめた梓は、



「旦那とわかり合えなくて、家族の形を壊してしまった私が言うんだから、説得力があるでしょ」


今まで挨拶をする程度の仲だったので、梓がどうして離婚したのかということはわからない。

しかし、安易に聞いていい内容でもない気がして、やっぱり雪菜はどう返事をすればいいか迷った。



「私も家族の形を壊してしまいました」


言ったつもりだったが、それが声になっていたのかどうなのかはわからない。

梓はそんな雪菜を見てくすりと笑い、



「ごめんなさいね。回覧板を持ってきてくれただけだったのに、余計なお喋りで時間を取らせてしまって」

「あ、いえ、私こそ」


雪菜は慌てて否定し、「それじゃあ」とだけ言って、『渡辺写真館』を後にした。

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