オレンジロード~商店街恋愛録~


この町にきてずっと、これでいいのだと、半分は自分を騙しながら毎日を過ごしていた。

けれど、今になって、小さな迷いが生まれたのも確かだった。


だからって、どうすればいいのかなんてわからないけれど。



「雪菜ちゃん。どうかした?」


『斉木生花店』に戻っても、浮かない顔をしたままだった雪菜は、斉木夫人に覗き込まれるように首を傾げられた。

雪菜はまた慌てて「いえ」と返すが、



「体調が悪いなら、今日はもう上がっていいわよ。どうせこれから暇になる時間だし」


斉木夫人に余計な気遣いをさせてしまった。

雪菜は申し訳なさから、大丈夫です、と言おうと思ったのだが、



「あら、いらっしゃい」


突然の来客にそれを阻まれた。

だから雪菜も、いらっしゃいませ、と言おうと思ったが、顔を向けて、驚いた。



「レイ……」


と、言い掛けて、慌てて口をつぐむ。


どうしてお店に来たの?

わたわたとする雪菜をよそに、レイジは店内へと歩を進め、雪菜のいるカウンターの前で足を止めると、



「ちょっとしたプレゼントに、何かいいのはないかな」


プレゼント?

困惑しながらも、雪菜はどうにかそれを顔には出さないように努め、



「花束ですか? どういったものがご希望でしょう? ご予算やイメージをお伝えしていただければ、適当なものをお包みすることもできますけど」


レイジは店内を見てまわし、「うーん」と首をひねった。



「わかんないから、好きなように作って」
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