オレンジロード~商店街恋愛録~
甘い色香を引き連れて去っていくレイジ。

明子は脳天から痺れたような感覚に、しばらくその場を動けなかった。



「ちょい、お前、邪魔なんだけど、そこ」


はっとして振り向くと、3つ上の幼馴染で八百屋の跡継ぎ息子・健介が。


こいつの所為でいい気分が台無しだ。

明子はわかりやすく舌打ちした。



「何よ、あんた」

「『何よ』じゃねぇだろ。人の店の前でぼけーっと突っ立ってられたら、開店準備ができねぇんだよ」


健介は「どけよ」と明子に言い、段ボール箱に入ったキャベツを手に取った。



「見ろよ、このキャベツ。緑が濃い。美味そうだろ?」


健介は八百屋という家業に誇りとプライドを持っていて、高校卒業と同時に店の手伝いを始めた。

喜んで一生をこんな商店街の片隅に捧げるなど、明子にとってはまったくもって理解不能だ。


っていうか、ハタチの男がキャベツのことで嬉しそうな顔してんじゃないわよ。



「どうでもいいんだけど、そういうの」


明子は吐き捨てるように言った。

だが、健介にとって、それはいつものことのようで、明子の言葉を受け流すように肩をすくめて、



「まぁ、お前は、愛しのレイジくんのことで頭いっぱいだもんなぁ」


馬鹿にされたような気がした明子は、眉を吊り上げて健介を見た。



「あんたみたいな野菜のことしか頭にないやつには、レイジくんがどれほど素敵かなんてわかんないでしょうね」


これにはさすがの健介も眉根を寄せた。

少しの睨み合いの後、



「確かにレイジくんはかっこいいよ。でも、お前はレイジくんの外見しか見てねぇじゃん。どうせ、顔がよければ何でもいいんだろ」

「そんなことない。レイジくんの優しさは、あたしが誰より知ってるんだから」
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