オレンジロード~商店街恋愛録~
帰宅して、先ほどレイジにもらった花束を、花瓶に生けた。
出窓にそれを置いて眺める。
今日が付き合った記念日などということはすっかり忘れていたので、冷蔵庫にはハンバーグを作るための材料しかなく、どうしたものかなと思っていたら、玄関のドアが開いた。
「たっだいまー」
レイジは出窓まで寄ってきて、
「飾ったんだね、それ」
と、嬉しそうに笑みをこぼした。
雪菜はぺたりと座り込んだまま。
レイジもそんな雪菜の横に腰を下ろす。
また、脳裏に父の顔がよぎった。
「ねぇ、私たち、ずっとこのままでいいのかな」
気付けば不安な言葉が漏れていた。
レイジはそんな雪菜を一瞥し、
「そうだね。最初はとにかくあの街から逃げることしか頭になくて、ここに来てからは生活を落ち着けることばかり考えてたけど、いつまでもこのままじゃいけないだろうね」
唇を噛み締める雪菜。
「私、矛盾してるよね。お父さんにはもう何を言っても無駄だと思ったから、こうしてふたりで逃げてきたのに、今更になって、やっぱり認めてほしいと思ってるなんて」
「まぁ、そんなもんなんじゃない? 親子なんて、きっと」
言ったレイジは、「俺には親なんていないからよくわかんないけど」と、相変わらず、笑っていた。
何なのかわからない涙が溢れてきた。
それでもそれをこらえようと思っていたら、レイジに引き寄せられるように肩を抱かれた。
バラの甘い香りがする。