オレンジロード~商店街恋愛録~
仕事を辞めて、アパートも引き払って、実家に戻って来てから2ヶ月が過ぎた。
さすがにそろそろ、両親からの、いつまでこのままでいるつもりだ、これからどうするんだ、という無言のプレッシャーがきつくなってきた。
が、当の結はといえば、無駄にハローワークに通っているだけで、特に何かしなければとも思えないまま。
これが無気力症候群というやつなのだろうか。
「今日もため息ばかりですね」
顔を上げると、『喫茶エデン』のマスター・神尾が、苦笑いでコーヒーを差し出してくれた。
実家にいると息苦しくて、だから結はいつも商店街の中にあるこの喫茶店で時間を潰している。
毎日のコーヒー代は馬鹿にならないが、それでもやっぱり働く気にはなれないのが本音だ。
「さっきもハロワに行ってきたけどさぁ。求人には『やる気のある人を募集しています』って書いてるけど、その時点であたし、不合格じゃない?」
「そんなことを胸張って言われてもねぇ」
マスターは、だからって結に、仕事を見つけなければダメだとは言わない。
まぁ、そうやって甘やかされているからこそ、結は日々をだらだらと過ごしながら、ここに通っているのだけれど。
「何で働かなきゃいけないんだろうね」
「そりゃあ、だって、お金を稼がなきゃ、食うにも困るじゃないですか」
「お金、お金、お金、お金。嫌になっちゃう」
「じゃあ、いっそ、俗世を捨てて、尼寺に入るというのはどうですか?」
「うわっ、それはないわぁ」
あれも嫌、これも嫌。
自分がどれほど我が儘で、駄々っ子のようなことを言っているのかはわかっている。
しかし、無目的に仕事を決めたところで、どうせ続くはずはない。
「あたしさぁ、仕事より、何かこう、生きがいみたいなものがほしいのかも。そのために頑張ってます、そのためなら頑張れます、みたいなものがさぁ」
「……趣味とか?」
「趣味ねぇ」