オレンジロード~商店街恋愛録~
首をひねって考えてみたが、やっぱり特に何も思い浮かばなかった。



「ちなみに、マスターの趣味は?」


少し、興味本位で聞いてみた。

するとマスターは、考える間もなく即答した。



「僕はクラシックを聴きながら、美味しいコーヒーを飲んで、こうやってたまにお客さんと話をすることですかね」

「それって趣味っていうより、ただのマスターの日常じゃない」

「はい。今では実益を兼ねた趣味みたいなものですね」


好きなことを仕事にしている、か。

結には羨ましい限りだった。



「いいなぁ、そういうの」


ぼやいた結は、



「そうだ。あたしを雇ってよ、マスター。そしたらあたしもそういうの何か見つけられるかもしれないし」


前のめりに、結は目を輝かせて言った。

しかし、マスターは真顔のまま、



「うちだって、やる気がある人じゃなきゃ採用しませんよ」

「わー、やな感じぃ」


頬を膨らませる結を見て、マスターはおかしそうに笑っていた。


窓の外がオレンジ色に染まり始めたので、そろそろ帰らなければと思った。

無駄に実家にいると肩身が狭くなる一方なので、せめて夕食だけは結が作るようにしているからだ。



「ありがとね、マスター。話してて、楽しかったし。あたしも帰ってまた色々考えてみるよ。今日の分、いくら?」

「お代はいいですよ」

「ほんとにぃ?」

「結さんはほぼ毎日きてくれるお得意さまですからね。たまには僕のサービスで」

「うっそ。嬉しい。もう、マスター大好きぃ」


そのままマスターに抱き付こうとしたが、とんでもなく嫌そうな顔をされたので、前言撤回されては困ると思い、やめておいた。

「またくるね」と言い、結は『喫茶エデン』を後にする。

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