オレンジロード~商店街恋愛録~
明子がレイジに一目惚れしたのは事実だ。

しかし、それはレイジが端正な見た目に似合わず、困っている老人を助けていた場面を目撃したから。


レイジは誰にでも優しく、何があっても嫌な顔ひとつしない、その人柄を、明子は好きになったのだ。



「あんたがあたしの気持ちを否定する権利あんの? あんたにレイジくんの何がわかるの?」


明子は怒った顔で詰め寄った。

けれど、健介は急に呆れた顔になり、



「お前の方こそ、レイジくんの何を知ってんだよ」

「はぁ?」

「名前、年、バイト先。でも、その他は?」


明子は、途端に言葉が出なくなった。

健介は、そんな明子を見て、



「レイジくんはお前が思ってるような人じゃねぇし、あんま美化して見すぎねぇ方が身のためだぞ」


言って、奥に引っ込んだ。



「ちょっと、それどういう意味よ!」


明子は大声を上げるが、それに取り合う気がないらしい健介は、後ろ手に手をひらひらとさせるだけ。

明子は唇を噛み締めた。



「何よ、あいつ」


個人的な情報をより多く持ってなきゃ、好きになっちゃダメなの?

そんなもん、恋する気持ちとは関係ないじゃん。


どうせ健介は、あたしの恋路を邪魔したいだけでしょ。



「馬鹿!」


店の奥に向かって叫び、明子はふてくされたまま、足を踏み出した。

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