オレンジロード~商店街恋愛録~
学校は楽しい。
あんな古臭い商店街のことなんて忘れ去ったように、香水をふんだんにつけて、制服をおしゃれに着崩して。
好きな人の話や、昨日観たテレビなんかの話で、くだらないことでも笑い転げて。
でも、帰宅の途に着くと、途端にシンデレラの魔法が解けるように、現実に戻ってしまう。
順々にシャッターを閉めていく商店街。
その所為で、余計、さびれて見える。
やっぱりあちこちから聞こえてくる、おじさんやおばさんからの、「あきちゃん、おかえり」という声がうるさい。
「またこんな時間まで夜遊びしてたのかよ、不良娘」
八百屋の軒先をほうきで掃いている健介に毒づかれた。
夜8時のどこが『こんな時間』なんだか。
「つーか、香水なんかつけて、くせぇんだよ、お前」
「あんたに関係ないでしょ」
明子は健介の方を見ずに言った。
「日がな一日中、野菜の相手してて、何が楽しいんだか。あんたがあたしを理解できないように、あたしもあんたなんか理解できない」
この商店街を出れば、輝くようなことが溢れている。
なのに、好き好んでこんなところにいるなんて、ありえない。
明子の言葉に健介は肩をすくめ、
「お前、昔は素直ないい子で可愛かったのになぁ。厚塗りしすぎで心まで汚れたか?」
「あんたのそういうところがムカつくって言ってんだけど」
思わず睨みつけた。
「今のお前を見てると俺もムカつくよ」
健介も明子を睨む。