オレンジロード~商店街恋愛録~
昔はいつもふたりで、商店街の隅で遊んでいた。

けれど、こんな風になってしまったのは、いつの頃からだったか。



「あたしのことが気に入らないなら、話し掛けてこなきゃいいじゃん。なのに、何? 毎日毎日、顔を合わせる度に文句ばっか言って」

「お前のためを思ってるから言ってんだろ。俺も、お前の母ちゃんも」


押しつけがましくて、恩着せがましい。

あたしのためを思うなら、この古臭い商店街や実家の家業をどうにかしてよ。



「うっざ」


明子は吐き捨てた。



「どこがいいのよ、こんな商店街なんて」

「………」

「あたしにはちっともわからない。わかりたいとも思わない」


健介は何も言わない。



「あたしはこんな商店街で生まれ育って恥ずかしいと思ってるし、嫌なの。こんなとこ、早く出て行きたいの」


それでも健介は何も言わなかった。

明子は唇を噛み締め、



「二度とあたしに話し掛けないで」


言って、再び歩を進めた。



確かに昔は健介とふたりで商店街の隅で遊んでいた。

でもそれは、外の世界の楽しさを知らなかったからだ。


あたしはもう、あの頃とは違うし、ここで生きることを決めた健介とも違うから。

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