オレンジロード~商店街恋愛録~
口説かれているのか、それとも単に会話の流れというだけなのか、いつも磯野の言葉は判別がつかない。



「とか言って、磯野さん、実はカノジョいたりするんじゃないのぉ?」

「まさかぁ。いないよ。募集中。サリーちゃんがなってくれればいいのに」

「またそんなこと言って」


言い方は悪いが、磯野は好物件だ。

お堅い職業で将来安泰だし、人柄も悪くないのは知っているから。


だけど、互いに酒の入った上での会話なので、いちいち本気で受け取るほど馬鹿にはなれない。



途中、携帯が鳴り、磯野が電話をするために店の外に出ると、今までにやにやしながらも何も言わなかった店長が、「なぁ、サリーちゃん」と潜めた声で話し掛けてきた。



「磯野くん、サリーちゃんに気があるんじゃないのかい?」

「店長までそんなこと」

「だって、傍目にもそう思うよ」

「えー?」

「おじさんはいいと思うけどなぁ。軽い感じで付き合っちゃいなよ。若いうちだけだよ、そういうことができるのは」


この酔っ払いオヤジは、他人事だと思って好き勝手なことを。

しかし、すっかり酒の力でご機嫌になっている店長と真面目に話す気にもなれず、「そうだね」と沙里は、適当にだけ返しておいた。


そんな話をしているうちに、電話を終えたのか、磯野が再び戻ってきた。



「何の話してたの?」

「磯野さんには内緒の話」

「えー? ひどいなぁ。教えてくれよー」


そして目が合い、ふたりで笑った。



磯野といて、胸が高鳴るようなときめきはない。

でも、店長が言うように、もし付き合いに発展したとしても、これはこれで上手くやっていけるのではないかなと、沙里は思った。


漠然と、結婚するならこういう人なんだろうな、という感じだ。

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