オレンジロード~商店街恋愛録~
今日も無事に仕事を終えた沙里は、その足で真っ直ぐに『えびす』に向かった。
店に入ると、珍しく、本屋のハルが飲んでいた。
「お、サリーじゃん。ちょうどいいところに来たな。待ってたんだ。まぁ、座れよ」
どいつもこいつも、どうしてこう、当たり前のように年上に対して偉そうにできるのか。
少し腹立たしかったが、でもハルがあまりにも神妙な顔をしているため、何事なのかと思い、沙里は言われた通りにカウンターのハルの隣に腰を下ろした。
ハルは自分のグラスにあるビールの残りを一気に流し込むと、
「明子から聞いたけど、お前、ストーカーされてんだって?」
何だ、そんな話か。
身構えていたため、拍子抜けした。
「女子高生ってほんとお喋り好きよねぇ」
「のん気なこと言ってる場合か」
「だって、あんたが考えてるような逼迫した状況じゃないもの」
「『逼迫した状況』になってからじゃ遅いから言ってんだろ!」
「っていうか、あんたほんと人の世話が好きよね。面倒見がいいっていうか」
「話を逸らすな!」
ハルはカウンターテーブルをバンバンと叩く。
沙里はため息を吐いた。
あたし、別に困ってませんけど。
言いたかったけど、でもこれはこれで自分を親身に思ってくれているとわかっているため、沙里は言葉を飲み込んでおく。
代わりに沙里は、言葉を選びながら、
「ハルくんや明子ちゃんの気持ちは嬉しい。でもね、あたしは今の時点では何も被害を受けてないし、特に迷惑してるとかいうこともないの」
「………」
「確かに表現としては“ストーカーされてる”ってことになるんだろうけど、でも相手からは善意しか感じない。ほら、子供がひとりで歩いてたら大丈夫かなって見守るじゃない? それと似たようなものっていうか」
「お前、子供じゃねぇじゃん。アラサーじゃん」
「だから、もののたとえでね? っていうか、アラサーとか言わないでよ! 気にしてんだから!」