オレンジロード~商店街恋愛録~
家に帰ると、やっぱり今日もまた、ドアノブにはコンビニ袋がぶら下がっていた。
中を確認すると、手紙と胃薬と、
「……これ、何?」
謎の箱。
恐る恐る箱を開けてみると、髭剃りや無駄毛除去の時に使うようなシェーバーっぽい黒い何かが。
沙里は首をかしげながら手紙を開いた。
【飲み過ぎです。あと、磯野は危険なので騙されるな。護身用にスタンガンを入れておいたので、持っているべきです。説明書をよく読んで、一度、使う練習をしておくといいです】
今日も一体どこで見ていたのやら。
っていうか、あまりにも普通に書かれすぎてて、一瞬、読み流していたけれど。
「え? スタンガン? スタンガンって、あのスタンガン? 本物? え? えぇ?!」
沙里なりのスタンガンの知識といえば、ドラマとかでビリビリッと電流を走らせて瞬間的に相手を気絶させるアレだけど。
まさかそれが今ここにあるなんて。
こんなものを渡してくるスーさんの思考も、人物像も、ますます謎に包まれたわけだが。
「ありがたいけど、使えないっつーの」
普通はせめて、防犯ブザーとかでしょ。
と、突っ込みながら、沙里はスタンガンの入った箱を手に、部屋に入った。
ひとまずスタンガンの箱は押し入れにしまい、チェストの上に束ねて置いている、スーさんからの手紙に目をやる。
【こんな時間まで洗濯物を干さない方がいい。2階だからって安心しないでください】
【商品の納入業者の男は実は変態なので、気をつけてください】
【最近コンビニ弁当ばかりですね。せめて野菜も一緒に買え】
【今日、着ていた赤い服は、似合わないです。なぜなら、あんたは淡い色の服の方が似合うと思うからです】
【雨の日が続いていますが、たまには体でも動かせ】
何度、読み返してみても、笑ってしまう。
ハルに心配されて、『気をつける』とは言ったけれど、でもやっぱり、それは沙里の本心ではない。
だって、誰に何を言われたって、この手紙のおかげで、落ち込んでいた時に励まされたことが何度もあるからだ。