オレンジロード~商店街恋愛録~
翌日、仕事を終えて店のシャッターを下ろしている時だった。
「サリーちゃん!」
呼ばれて振り向くと、息を切らした磯野が駆け寄ってきた。
確かに沙里はここで働いていると前に教えたことがあるが、でも『えびす』以外で磯野と会ったのは初めてだったから、驚いた。
と、同時に、血相を変えて走ってくる磯野に、何事なのかと思わされて。
「どうしたの?」
「『どうしたの?』じゃないよ。遠藤くんから聞いたよ。サリーちゃん、ストーカーされてるんだって?」
お喋りなのは、どうやら女子高生だけではなかったらしい。
本当に余計な世話を焼きたがる本屋だと内心で舌打ちしながらも、沙里は「あはは」と笑っておいた。
が、当然のように、磯野はそれでは終わってくれない。
「僕にできることはない? 力になるよ。っていうか、サリーちゃんの力になりたいんだ。心配なんだ、サリーちゃんのこと」
走ってきた勢いそのままに、磯野は沙里の目を真っ直ぐに見て、力強くそう言った。
磯野にまで心配してもらえることは嬉しい。
と、思う反面、昨日のスーさんからの手紙が引っ掛かる。
磯野は危険だと書かれていた、あの手紙。
スーさんは、あたしと磯野さんの仲を発展させないために、わざとそう書いただけ?
それとも、百人が百人、いい人だと口を揃えるこの人だけど、実はスーさんだけが知ってる、何か秘密があるとか?
「……サリーちゃん?」
呼ばれてはっとした。
「あ、ごめん。えっと、嬉しい。ありがとう。何かあったら相談させてもらうね」
「え……」
「っていうか、あたし、まだやることが残ってるんだよね」
慌ててそう口にすると、磯野は「そっか」とだけ言って、苦笑いした。