オレンジロード~商店街恋愛録~
あれ以来、沙里は『えびす』に足が向かなくなった。
お酒を飲んでみんなとお喋りするのは楽しいが、反面で、もうこれ以上、ストーカーがどうのという話をしたくはなかったから。
心配してくれるのはありがたいが、でも度が過ぎれば沙里にとってはただの迷惑にしか思えない。
そして、『えびす』に行かなくなって、2週間が経った、ある日のこと。
沙里は仕事を終え、夜道を家まで歩いて帰っていた。
時刻は午後9時半を過ぎた頃。
近所のコンビニでいつものように弁当とビールを買おうと考えながら、街灯の少ない路地裏へと入った時、
「サリーちゃん」
暗闇から呼び止められて、びくりとしながら沙里は足を止めた。
よくよく目を凝らして見ると、
「……磯野さん?」
ゆらりと磯野は足音もなく近付いてくる。
「どうしたの? こんなところで。っていうか、びっくりするじゃない」
暗がりだからなのか、磯野の顔は青白く見え、その所為でお化けにでも遭遇したような気分になる。
無表情の磯野。
状況が状況だからか、沙里の体は意思とは別にこわばっていく。
「磯野さん?」
もう一度、震える声でその名を呼んだのだが。
「どうして僕を避けるの」
「え?」
「僕のこと避けてるでしょ?」
絞るように聞いてきた磯野。
磯野は刹那、沙里の両肩を掴むと、激しく揺すりながら、