オレンジロード~商店街恋愛録~
「ちょっ、やめて!」


腕を掴まれると、強気になったのも一転、また体が恐怖にこわばった。

磯野の手の力が、あまりにも強かったから。



「離してよ! 警察呼ぶわよ!」

「黙れ! 僕に謝罪しろ!」


磯野の言い分は、もはや支離滅裂だった。

が、叫んだところであたりに民家はないため、どうにもならない。


沙里が抵抗を続けているうちに、次第に揉み合い状態になり、「暴れるんじゃない!」と声を荒げた磯野が腕を振り上げた。



やばい、殴られる!



沙里が反射的に目を閉じた、その瞬間、



「何やってんだよ!」


背後からの声が響いたのと同時に、ガッ、という音がして、沙里の腕を掴む手が離れた。

何事なのかと驚いて目を開けた沙里が次に見たのは、なぜかその場に倒れている磯野と、誰かの後ろ姿。



「……浩太?」


その後ろ姿が浩太であると、遅れて気付いた沙里は、恐る恐るその名を呼ぶ。


浩太は肩で息をしていた。

状況から察するに、沙里の声を聞き付けた浩太が駆け付けてくれ、磯野を殴ったか何かしたのだろうけど。



「うぐっ」


ゲホゲホと咳き込みながら、磯野はよろよろと体を起こした。



「ちくしょう! 何をするんだ! お前、『えびす』のバイトだろ? 客にこんなことしてタダで済むと思うなよ!」

「あ? 店の外で客もバイトもねぇだろ。つーか、てめぇこそ、教師のくせに女襲ってタダで済むと思ってんのかよ」

「なっ」

「学校にバラしたらどうなるかな。懲戒免職か? そうなったら、嫁と子供にはこのことをなんて説明するするつもりだ? あぁ?」
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