結婚してください
「それはできない。親父が生きている以上それには応じられない。けれど、もし、今後親父に何かあれば、いや、俺が正式に親父の跡を継げばその時は亜紀の好きにしたらいい。
離婚でもなんでも亜紀に任せる。」
それでいいの? 英輔はそれで問題ないの?
そのために好きでもない私に媚びたくもないのに媚びて愛想振りまいてやってるんでしょ?
「亜紀は離婚を望んでいるんだろ?」
「そういうわけじゃ・・・・」
「イエス」って言えば良いのよ。ここでは。私はこんな結婚望んでいなかったのだから。
なのになんで「イエス」って一言が言えないの?
「だからそれまでは辛抱して欲しい。
山崎とお前の邪魔をするつもりはないんだ。」
それだけ言うと英輔は黙り込んで夜景を見ていた。
その英輔の表情があまりにも悲しそうな顔だった為何も言えなくなった。
そんな顔されると誤解してしまう。
英輔には藤沢愛華がいるのに。なんでそんな顔するの?
まるで私のことを考えているみたいな。
しばらく何も会話をすることなくその場で二人並んで夜景を見つめていた。
「戻ろうか?」
そう言って英輔は私に手を差し出した。
え・・・・と、それって手を繋ぐってこと?
初めて差し出された手にどう反応して良いのか戸惑っていると、英輔は私の手を握り締めた。
「亜紀の手は柔らかくて温かいね。」
そう言って指を絡めてきた。こんな英輔初めて見る。
繋いだ手を少し持ち上げ嬉しそうに微笑んでいるその顔は嘘じゃない。
紛い物の笑顔じゃないのが分かる。
すると私も英輔の笑顔に釣られ微笑んでいた。
こんな英輔にもっと早く出会えていたらもう少し私たちは違っていたのだろうか?と思ってしまうほどに この時は英輔との時間が楽しかった。
英輔は車に乗ると繋いだ手を離し隣に座る私の肩を抱き寄せ私の髪に触れてくる。
こんな仕草は恋人にすることだよね? 私は違うのにと少し心苦しく感じてしまう。
それでも英輔の大きな手に触れられる肩や頭が熱くなっていく。