結婚してください
施設の細い廊下の奥の部屋から明かりが漏れていた。
もしかしてそこに英輔がいるのだろうか?と部屋に近づく。
すると、部屋の中から人の話し声が聞こえる。
ドアの隙間から中の様子を伺ってみるとそこには英輔と藤沢愛華がいた。
英輔はソファーに腰掛け本を読んでいた。
その後ろに藤沢愛華が立っている。
「もういい加減部屋に戻れ。お前が戻らなければ俺は部屋に戻る。」
「亜紀さんのところへ?彼女に嫌われているクセに。」
「それで? 亜紀は俺の妻だ。」
「名ばかりの妻じゃない。あんな女さっさと離婚しちゃいなさいよ。」
藤沢愛華の声が私の胸に突き刺さってくるようだ。
胸がチクリと痛む自分がいる。
「俺は亜紀とは離婚しない。例え離婚したとしてもお前と結婚するつもりはないから覚えておけ。」
そう言うと英輔は読みかけていた本を荒っぽく閉じる。
「あの女のどこが良いのよ! これまで英輔を支えてきたのは私よ!
英輔がどれだけ周りから蔑まれてきたと思うの?!
あの女のせいで英輔は周りからなんと言われているのか分かっているの?!」
「これ以上妻の侮辱をするな。たとえ誰がなんと言おうが亜紀は俺の妻だ。
亜紀さえいれば、俺はなんと言われても平気だ。」
「愛人のもとにいる妻のどこがいいのよ!
あの女は英輔じゃなくて他に男がいるじゃないの!」
「それでも亜紀は俺の妻だ。」
そう言うとドアの方へと近づいてきた。
私は慌てて近くのドアから違う部屋へと隠れた。