結婚してください
英輔があんなふうに思ってくれていたとは知らなかった。
それに、社交界ではいったい英輔はどんな仕打ちを受けているのだろう?と心配になってきた。
私の為に英輔がどんな目にあっているのか、二人の会話やさっきのあの広間の人たちの会話でなんとく想像ができた。
どこへ行ってもこんなことを言われ続けているのだろう。
なのに、そんなことは英輔は何も言わない。
そして屋敷の人たちも私には何も教えてくれなかった。
部屋へ戻ると既に英輔がベッドに座っていた。
私が部屋に入ると驚いた顔をしていた。
目を丸くさせて何故ここに居る?みたいな顔をされると、私は戻ってきて良かったのかと不安になってしまう。
部屋の中に入ると英輔は私のところへと駆け寄り抱きしめてきた。
私は何が起きたのか頭の中が真っ白になり立ち竦んだ。
「山崎のところへ行ったのかと思った。」
抱きしめられる英輔の手が震えていた。
この人は本当に私を気にかけてくれていたんだと、この時初めて分かった。
英輔のこの気持ちは嘘ではないと感じた。
「約束したじゃない。3日間はどこにも行かないよ。
少し外の空気吸ってただけ。
山崎とは会っていないよ。本当だから、信じて。」
「ああ、信じる。
お前を信じる。」
英輔の表情にも少し疲れた感じを受ける。
きっと私のことで英輔なりに苦しい思いをさせてきたんだろうと思った。
ごめんね、こんな妻で。
英輔を抱きしめ返した。今の私に出来ることはこんなことだけ。
少しでも英輔が癒されるのであれば今夜はずっとそばにいるから。
安心して眠って欲しい。
そしてこの日初めて私たちはキスをした。
甘く深いキス。
その夜も、英輔の温もりに抱きしめられ眠った。
英輔はこの夜も私には何もしなかった。
ただ、眠る時に抱きしめてくれた。温かく心地よい睡眠とともに。