結婚してください
翌朝、目を覚ますと既に英輔は起きていた。
ベランダに出ていた英輔は朝の山の様子を見つめていた。
見つめるその目はとても悲しげに見えた。
「おはよう、山の朝って清々しいね。」
「おはよう、ぐっすり眠れたかい?」
私に気づいて振り向いた英輔はいつもの表情に戻っていた。
「お陰さまで、よく眠れたわ。」
英輔に抱きしめられて眠るなんてあの屋敷にいた頃だと信じられないことかも。
きっと、想像もつかなかったでしょうね。
なのに、安心して眠れたなんて皮肉なものだわ。それも心地よく気持ちが穏やかになるなんて・・・
「山の朝の風景は神秘的だ。何度来てもまた来たくなるよ。
亜紀と一緒に来れるならもっと楽しくなるんだろうけどね。」
英輔は本当に私と一緒にこの山へ来たいと思っているのかしら?
私には英輔の考えていることが良く分からない。
「今日、サークルのみんなの下へ戻るのか?」
そういえば3日目だわ。今夜、みんなの元へ戻るつもりだったけど。
「約束は3日間よね。夜にはサークルへ戻るわ。」
「そうか・・・・」
それだけ言うと英輔は私に背を向けて部屋へと入っていった。