結婚してください

私はベランダから外の景色を眺めていた。


前ほど英輔のことを嫌いになれない自分に戸惑いながら、3日間の約束でサークルへ戻ることを躊躇っている自分がいる。


こんな自分に驚いている。


きっと、このままサークルのみんなの元へ戻ってしまうと、英輔はまたあの客人らに冷たい言葉を浴びせられるのだろうと思う。


少しは私も大人にならなければという気持ちが芽生えてきたのは確かだった。


私の我が侭で英輔はもう2年もの間こんな生活を余儀なくされている。


結婚に反対しても既に入籍をしてしまっているのだから、もう少し歩み寄る必要があるのかも?


この3日間の中で英輔が前向きに努力しているのに私はいつも何も理解も協力もしようとしていなかった。



部屋へ戻るとベッドに座ったまま頭を抱え込んでいる英輔がいる。


私が追い詰めているのだろうか? 英輔を苦しめているのは私の自分勝手な行動なの?


英輔の隣に座ると英輔の頭を抱きしめた。


「ごめんね」


私にはこんなセリフしか言えなかった。


「お前はお前の好きにしていい」


英輔は以前のように私を屋敷へ連れ戻そうと説得しなくなった。以前は藤沢愛華がいれば私は必要のない人間なんだと思っていた。けれど、それは違うと分かった。


英輔は私を必要としてくれている。今回の英輔と過ごした3日間でこれまで見えなかったことが見えるようになった気がする。


そして、英輔は私が思っている以上に家のことも私のことも考えてくれていたと。


だから、胸が痛むし熱くなってしまう。心が揺れ動かされていくようで怖くもあった。


「亜紀、シャワー浴びておいで。朝食にしよう。」


「うん・・・」


英輔は抱きしめる私の手を振りほどくとベッドから立ち上がり部屋を出て行く。





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