結婚してください
私は英輔との関係を望んでいなかった。だから、英輔に求められないことを喜んでいたのに何故か見向きもされないと「私は妻なのに」と矛盾した気持ちが溢れてくる。
これで良いのだからと自分に言い聞かせるようにしてシャワーを浴びに行った。
シャワーを浴び終わるとメイドの坂田さんがドレスの準備をしていた。
「英輔様が今日の為に特別に取り寄せられたんですよ!
素敵ですわ! とってもお似合いですよ!」
薄いグリーン色のドレスだ。エレガントだが露出度は大きくなくそれでいて体のラインが分かるようなドレスだった。
まるでイブニングドレスのような華やかさがある。
「朝から派手じゃないの?」
「英輔様がお選びになったドレスですよ。さあ、お隣のお部屋でお待ちですよ。」
隣の部屋で? 隣って?
私が不思議そうな顔をしていると坂田さんはにっこり笑って答えた。
「実は、お隣の部屋は英輔様のお部屋なんですよ。」
「え・・・・でも、この部屋で一緒に・・・」
「亜紀様と離れ離れになりたくなかったんでしょうね。」
その言葉をどう解釈していいのか戸惑うばかりだった。
それでも、英輔が待つという隣の部屋へと入っていった。
室内に入るとそこでも英輔はベッドに座ったままだった。
私に気づくとベッドから立ち上がった。
「これ、派手じゃない?」
「よく似合っているよ。綺麗だ」
この山での生活では、英輔は別人になったかのように優しい言葉を言ってくれる。
それが嬉しくもあり怖くもある。私は素直に英輔の褒め言葉を受け入れられない。
戸惑っている私を見て英輔はしっかり抱きしめてくれた。