結婚してください
一緒に眠っていた時から腕枕はしてくれたが、服を着ているときとは感じ方がかなり違っていて終始心臓がドキドキしっ放しだった。
英輔が思いのほか逞しい体をしていることについ見とれてしまっている。
恥ずかしいと思いながらもそんな逞しい胸に縋るように抱きしめられている。
「今日、帰ってしまったら亜紀はまたいつもの生活に戻るのだろう?」
英輔の沈んだ声に返事をするのが辛くなり、ただ、頷いて見せた。
「そうか。亜紀がそれを望むならそれもいいさ。
その代わり、もっとセキュリティの良いマンションへ引っ越してくれ。」
「え? 今のところでも十分だし、気に入ってるわよ。」
「ダメだ。お前は藤堂家の嫡男の妻なんだ。もしものことがあっては遅いんだよ。
これまでも24時間体勢でSPを付けているが、今のままでは完全に安全とは言えないんだよ。」
SP?! 24時間体勢? どういうこと?
そんなの知らない。
私が驚いて飛び起きるとベッドに座った。
「亜紀はもう藤堂家の人間だ。こんな会社はね謂れのない恨みを買うことも多いんだよ。
そんな時弱い女や子どもへその矛先が向く事だってある。
今まで何とか亜紀一人だからSPにも頑張ってもらっていたが、もし、亜紀が妊娠でもしたらそうはいかないんだよ。守れるものも守れなくなる。」
私が妊娠?!
それに、藤堂家だからいつもの生活が危険にさらされることがあるとは、これも考えたこともなかった。
「だから、屋敷へ戻れとは言わない。せめて、もしもに備えて子育てが出来る環境へ引っ越して欲しいんだ。マンションが嫌なら家を建てても良い。亜紀に任せるから。好きに選んで欲しい。」
今回のことで私が妊娠しなかったとしても、いずれ私は藤堂家の跡取りとなる子どもを産まなければならない。それは私の務めだから。
分かってはいたけど、こうやって生々しい話になると思わず尻込みしてしまう。