結婚してください
英輔が必死になって自分がお腹の子の父親だと力説するのは良いけども、横で聞いている私としては恥ずかしくて顔が真っ赤になり柴崎さんをまともに見れなかった。
「え・・・あ・・その。まあ、だから そういうことだから。俺の子には間違いないんだよ。」
英輔も真っ赤になりながら恥ずかしそうに顔を片手で塞いだ。
そんな私と英輔の様子をみていた柴崎さんはにっこり笑った。
「やることだけはやってたんですね。安心しましたよ。」
そう言うと部屋を出て行った。
部屋の外ではいきなり使用人たちが大騒ぎをしていた。
きっと私の妊娠が伝えられたのだと思う。
この屋敷へ戻ってきて良かったのだろうかと最初は思っていた。
けれど、優しくて私のことを大事にしてくれる英輔がそばにいてくれるだけで安心して眠れる夜が続く。
あの夏の山の時のように、英輔に抱きしめられ眠る日がまたやってくるとは思ってもいなかった。
そして、藤堂家に住んでいる自分が一番の驚きだった。
あれほど嫌だった思い出しかないはずなのに、今ではとても安心して心地よく過ごせる憩いの場になっている。
そしてそれからいろいろなところからお祝いを頂く。
まず一番初めに英輔の父親と弟だ。次に私の両親。 そして、英輔の交友関係や仕事関係の人たち。
あの、藤沢愛華もまたやって来た。
テラスで英輔とお茶をしている時のことだった。
遠慮なくテラスへ上がりこんできた。勝手知ったる他人の家と言う感じだ。
誰にも案内されることなくやって来た。
「おめでとうと言ったがいいのかしら?」
「ありがとうございます」
皮肉っぽく言う藤沢愛華に負けじと、背筋を伸ばし堂々たる態度で応じた。
少しでも弱腰なところをみせればこの女は絶対に私を攻撃してくる。そう思えた。
彼女は私の顔を睨みつけて手には拳を握っていた。やっぱりこの人は英輔が好きだったんだと思った。
「別居しているのに子どもが出来るなんて、例の愛人の子じゃないの?!
英輔との間に生まれるわけないでしょ。」
勝ち誇った顔をして彼女は言い放った。