結婚してください
翌朝、時間通りに英輔がやって来た。
いつもに比べラフな格好だ。ジーンズにシャツといったとても身軽で藤堂家の跡取りとは思えないような質素な装いだ。
そんな装いでも英輔だととても魅力的でつい目が英輔へと向いてしまう。
乗ってきた車も同じで今までのような高級車ではなく一般的な家庭にあるような車だ。それでも、安いものではないけども。
「随分お腹が大きくなってきたな。赤ちゃんは動く?」
「時々は動くわ。」
「赤ちゃんは男?それとも女の子?」
「聞いていない。」
英輔の運転する車で病院へと向かっている私たち。
何気なく話をする英輔だが、子どもの性別を聞かれると言葉に詰まってしまう。
もし男の子なら跡取りとして取り上げられる?!
だったら女の子でいい! 私はどちらでも良いのだから。
万が一男の子であの家に取り上げられるのなら男の子はいらない。欲しくない。
「女の子なら、きっと亜紀に似て可愛い子になるだろう。男の子なら藤堂家の跡継ぎだ。大事に育てないといけなくなる。」
「自分の子どもだと思っていないのに跡継ぎなの? 矛盾してるわね。」
「その話はまた後でだ。
病院はここでいいのか?」
「ええ、ありがとう。」
病院の駐車場に車を停めると病院へと入っていく。
受付まで行くと英輔が一緒だからか緊張してしまう。
待合室にいる妊婦さんや患者さんが英輔に見とれてしまっている。
毎度のことながら英輔が女にモテるのが私は気に入らない。
高校時代からモテていたけども、最近では益々魅力的になり周囲の女の目を引き付けている。
そんな人が自分の夫だと信じられないと思うようになる。