結婚してください
受付を済ますと待合室のソファーに二人並んで座る。
周りの妊婦さんたちに羨望の眼差しで見られると私までも恥ずかしくなる。
隣に座る英輔を見ていると、本当にこの人が私の夫でお腹の子の父親なんだと実感する。
「最近の体調はどお?」
「うん、大丈夫。看護師の山田さんに良くしてもらっているから。」
「それは良かった。」
久しぶりに見た英輔の優しい顔だ。心配してくれていたんだろうか?
そんな顔をして見せられると心が痛んでしまう。
「え・・・と」
「?」
何か言いたそうな顔をしているが、顔が少し赤い? 英輔にしては珍しく落ち着きのない顔をしている。
「あ・・・・その、お腹触っても良い?」
お腹って・・・・赤ちゃんのこと?!
真っ赤な顔をしてうろたえた様子の英輔に少し笑ってしまった。
「可笑しいか?」
「ううん。いいよ。」
初めて触れる赤ちゃんだよね? やっぱり英輔も気になっていたんだろうか?
本当は自分の子だって思ってくれていたんだろうか?
お腹に触れるその手が優しくて、お腹を見る英輔の目が優しくて私は勘違いしてしまいそうになる。
まるで愛おしい人でも見るかのような英輔の目に私は心が落ち着かない。
「あ、動いた!」
お腹を蹴る赤ちゃんの動きを英輔が感じ取っている。まるで親子のコミュニケーションのように。
「すごい・・・こんなに動くんだ」
よほど嬉しかったのか英輔は順番を呼ばれるまでずっと私を抱きしめてお腹の赤ちゃんと会話をするようにお腹に触れていた。