結婚してください

診察では超音波撮影で赤ちゃんの状態を見せてくれた。


初めて見る映像に英輔は驚いていた。


「これ、俺の赤ちゃん?」


「随分大きくなりましたね。一時は標準より小さかったので心配でしたが、これなら大丈夫ですよ。心臓も問題なく元気に動いていますし、手足もよく動いていますよね。」


先生の言葉より映像に映し出されるわが子に夢中に見入っている英輔がとても印象的だった。


こんなふうに一緒に検診にくるなんて最初で最後だと私の中でそう思っていた。


だから、今日は英輔とは最後まで夫婦としてそばにいたいと思えた。


「エコー写真差し上げますね。随分ハッキリ分かるようになりましたよね。
元気なお子さんですね。」


「あの、性別は分かりますか?」


え? 今、なんて?


「分かりますよ。出産前に知りたい夫婦も多いですから、ご夫婦ともご希望の場合だけお教えしています。」


それは・・・困る。もし、男の子だったら大変なことになるんだから。


まだ、それは聞きたくない。


私の顔が青ざめていくとそれに気付いたのか英輔が「いえ、後の楽しみにしておきます」と断ってくれた。


そして診察も終わり、会計も済ませ病院を出て駐車場へと行く。


その間、私は一言も話をすることが出来ずにいた。


どうしても赤ちゃんの性別が気になるのだ。


もしかしたら出産後に引き離されるのではないかという恐怖が私を襲った。


「顔色が良くないな。どうしたんだ?」


「ううん、なんでもない」


「気分悪いのなら、もう一度見てもらおうか?」


「家へ帰りたいだけ。疲れたから」


そう言って誤魔化した。英輔は自分が赤ちゃんの性別を聞いたときから私が話さなくなったことに何かを感じ取ったのかもしれない。

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