結婚してください
客間では俺と山崎の二人が残っていた。
俺と井澤の話を黙って聞いていた山崎の表情は硬い。
亜紀に自分と再会する前に愛人がいたとは信じられない話なのだろう。
そういう俺だって、平凡な普通の女に二人もの愛人がいたことに怒りを覚える。
一番辛いのは俺だ。家同士で決められた許婚とは言え、俺は俺なりに前向きに努力していたつもりだったのに。
亜紀には何一つ伝わらなかった。俺の気持ちは・・・
「俺も帰らせてもらいます。」
山崎がやっと口を開いたと思えば帰るの一言だった。
山崎にやましい事があるように見えた俺は急に頭に血が上った。
「お前が子どもの父親なのか?」
思わず口走ってしまった。
「そんなに亜紀を信じられないのなら、さっさと離婚して下さいよ。」
山崎の鋭い睨みが俺を襲う。
燃え上がる炎のような目をしている。この男は危険だと感じた。
「俺は亜紀が離婚するのを待っていた。何年かかっても良い、俺は待つと亜紀に言ったんだ。
なのに、離婚どころかあんたの子を妊娠した。さすがにショックは大きかった。」
コイツは本当のことを話しているのか?
やっぱり、お腹の子は俺の子で間違いないのか?
「そんな女を俺が守ってやれるわけないだろ。それに、俺と再会する前に愛人がいたなんて・・・・亜紀には驚かされることばかりだ。
アイツはもう昔のアイツじゃない。お前たちの世界で腐れ切った女になったんだよ。」
「亜紀を侮辱するな!!」
亜紀の心の支えだった男に亜紀を侮辱されたことに腹を立てた俺は山崎の顔を思いっきり殴っていた。
殴られた山崎は床に倒れこんだ。そしてそのまま床に座ったまま頬を片手で押さえた。かなり痛みがあるようだ。