結婚してください
苦しむ亜紀の姿を見ていられなかったがそれでも俺のために命を懸けて子供を産んでくれているのだから。


絶対に俺は亜紀のこの姿を目に焼き付けておく。そう思っていた。


亜紀のこんな姿を見ていたら、伊澤や山崎を呼びつけ誰の子供かとあんな馬鹿な真似をしたことが腹立たしくなった。


そして、翌朝、早朝のことだった。


陣痛の間隔が短くなった亜紀は分娩室へと運ばれた。


出産に立ち会うかと問われ、もちろん俺は亜紀のそばから離れなかった。


ずっと亜紀の手を握り締め出産に立ち会った。


苦しむ亜紀の姿が見れずに俺のほうが失神してしまいそうな気分だ。


亜紀が苦しむと俺まで苦しくなる。


力を込めていきむと俺まで力が入ってしまう。


俺はこれまで一緒に出産に関しての講習会などは受けていない。


看護師から受けなかったのか?と問われてとても恥ずかしくなった。


父親も一緒に参加する講習が行われていることを分娩室に入って知らされた。


夫失格だと思い知らされた。


次の時は、俺も必ず一緒に講習を受けるよと、亜紀の耳元で囁くように言ってみたがきっと陣痛の痛みで亜紀の耳には届いていないだろう。


「ああっ!!!」


いきむ亜紀の声とともに助産婦や医師、看護師たちの動きが変わる。


「もう一回 いきんで!」


「んーーーっ!!」


亜紀のうめき声とともに助産婦さんの「おめでとうございます!! 男の子ですよ!」の声が分娩室に響き渡った。








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