結婚してください
あれから数日、病院は賑わっていた。


藤堂家の長男に息子が生まれたとお祝いに訪れる客が途切れない。


亜紀の実家の母親に付き添ってもらいながら、俺もできるだけ亜紀のそばについていた。


大学があるからと亜紀は病院へは授業が終わってからで良いからと言ってくれるが、とてもそんな気分ではない。


愛おしい我が子に会いたくて、愛する妻に会いたくて心が落ち着かない。


とてもじっと椅子に座って講義を受ける気分ではない。


病院で我が子を眺めているほうがどんなに幸せか。


朝から病院へ行っては亜紀を呆れさせてしまう。


「今、眠ったところよ。起こしたらダメだからね。」


「残念! 俺も抱っこしたかったな。」


「また、大学へは行かなかったのね。単位取れなくなるよ。」


亜紀は心配するがそこは何とか上手くやるつもりだ。


単位は落とすつもりはないし、我が子と亜紀を見ていたほうが勉強にも力が入る。


「今日はお義母さんは来ていないのかい?」


「お父さんが風邪気味らしいからって。赤ちゃんや私に風邪を移したら大変でしょう?
だから、今日は来ないって。」


「それは大変だね。お義母さんがいないと寂しいだろ?」


「うん。でも、英輔が来てくれたから寂しくはないよ。」


恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに言う亜紀が愛おしい。


つい、そんな亜紀を抱きしめてしまう。


亜紀に拒否されるかと思いながらも抑えられない気持ちが強く亜紀を抱きしめる。


嫌がられるのだろうかと少し不安になっていたが、亜紀は嫌がるそぶりはない。


俺を受け入れてくれている。





< 197 / 442 >

この作品をシェア

pagetop