結婚してください
季節は早いもので夏へと変わっていく。


英輔は毎日のようにマンションへ顔を出しては泊まっていく。


「英紀（ひでき）、今日も良い子にしていたか？」


眠る我が子の顔を覗き込んでは嬉しそうに眺めている。


英輔はすっかり息子の英紀の虜になっていた。


「お義父さんにはいい名前を付けてもらったよ。名前通り凛々しい顔立ちになっている。」


「大袈裟な。それに、他人の前でそんなセリフ言ったら単なる親バカって言われるわよ。」


「ああ、それでもいいさ。英紀が一番最高に凛々しい良い子だよ。」


抱きかかえそうな勢いで英紀の頬に触れる。


時間が許せばミルクを飲ませたり紙おむつの取り換えをしてくれる。


泣けば抱っこしてあやしてもくれる。


英輔がこれほどの子煩悩だとは想像もつかなかった。


「夕飯は食べていくでしょう？」


「いや、今日はもうすぐ帰るよ。」


「何かあるの？」


マンションへ寄った時は必ずと言っていいほど夕飯を食べていくのに。


お屋敷のほうで何かあるのかしら？


「実は、英紀のお披露目パーティをするんだよ。
藤堂家の跡取り息子だからな。避けられない運命なんだよ、この子には。」


やはり、この子は藤堂家の跡取り。


私が好き勝手に育てられるわけないんだわ。


もしかして、お披露目パーティの後お屋敷のほうへ連れて行かれるのだろうか？


不安が募っていく。



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