結婚してください

私一人で英紀を育てることが出来るのだろうか?


一般家庭の母子なら問題ないと思う。


シングルマザーって山ほどいるんだから。


でも、藤堂家の跡取りの英紀はこの世でたった一人。


その英紀を託児所や保育園任せで育てても大丈夫なのだろうか?


きっと、そんな生活をすれば藤堂家に引き取られてしまう。


大学へは戻る気はないし、今は卒業も考えていない。


少しでも早く仕事に就かなければ。


いつまで今の生活ができるのか分からないのだから。


「仕事したいのか?
亜紀には英紀がいるだろう?
それに亜紀は仕事などしなくても良いんだよ。
それくらい俺が面倒みるんだから。」


「いつまでもそういうわけにはいかないでしょう!」


つい声を荒げてしまった。


周囲のテーブルの人の視線を浴びてしまった。


「この話もあとにしよう。
それより、このワインはおすすめだよ。
飲んでごらん。」


冷たい言葉を浴びせたのに、英輔はそれでも私に微笑んでくれた。


そんな微笑は今の私にはとても辛い。


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