結婚してください
元彼だった山崎幸喜がそこに立っていた。
「藤堂家の人でも電車に乗るんだね。」
いきなりの皮肉が挨拶なの?
久しぶりにあった元彼女に対してそんなセリフしか言えないの?
「元気だった?」
「ああ、すこぶる元気だよ。
毎日が楽しくて時間が過ぎるのが早くて困るくらいだよ。」
私との過去がそれほど嫌な思い出になっているということ?
何だか以前の山崎とは違う人になったみたい。
「そんな皮肉言わなくてもいいのに。」
「皮肉に聞こえるのは田所に罪悪感があるからだろう?
ああ、田所じゃなかったな、藤堂だったよな。」
完全に怒っている。未だに山崎は私のことに腹を立てているのだろう。
私を見ても少しの笑みもない。
眉間にしわを寄せイラついたしゃべり方をしている。
「今日は、旦那は一緒じゃないんだ。
こんな電車に乗るなんて旦那が知ったら怒るんじゃないのか?」
英輔とは離婚して私は独身だから移動するには電車に乗ることだってあるわ。
私は車を持っていないし、自動車免許だって持っていないのだから。
山崎の言葉に言い返しのできない私は黙って俯いてしまった。