結婚してください
亜紀はどんな反応を示すのだろう?
興味より怖さの方が増してしまう。
もし記憶が戻った亜紀がまた俺に騙されたと勘違いをしたら今度こそ修復不可能になるかもしれない。
俺は騙すつもりはなかったし、亜紀を手放したくなかっただけなのだ。
けれど、亜紀はそう思っていない。
エントランスまで来ると俺の足が竦んでしまう。
「どうしたの? ここなんでしょう?
早く入りましょうよ。」
全く何も感じないのか亜紀は平然とそこにいる。
そんな亜紀の様子に俺の心が少し楽になった。
ここへ来たいと誘ったのは俺なのに急に怖く感じてしまった。
俺は亜紀を連れてあの部屋へ入っていけるのだろうか?
冷や汗が出てきた。
そんな俺を心配してか亜紀が俺の顔を覗き込んだ。
「大丈夫? 気分悪いの?」
亜紀のその笑顔を失いたくない。だからマンションへ入るのが怖くなった。
怖いと言えずただ狼狽えてしまいそうになった。