結婚してください
「忘れていることもあるようで、何かを思い出そうとすると頭痛がするの。」
「頭痛が?」
「いつもじゃないのよ。
でも、時々自分で今の状況が理解できなくて悩むことがあるの。」
それはそうだろう。
二人の子どもを出産した母親だということも、俺の妻だということも君は忘れてしまっているのだから。
そして何より君が一番嫌っている藤堂家の屋敷で生活しているのだから。
「私は10代の子どもじゃないわ。
そして、あの子ども達は英輔の子どもよね。
英輔とあの子達が触れ合う様子をみれば分かるわ。
少なくとも、今世話をしている私にはそう感じる。」
そして君の子ども達でもあるんだ。
それをどうやって教えればいいのだろう?
その術を俺は知らない。
「あの子達の母親は彼女なの?」
「彼女? それは誰のことだ?」
「あなたの恋人よ」
藤沢愛華のことを言っているのか?
もしかして亜紀は俺が愛華とそういう関係にあると思っていたのか?
「彼女とあなたはずっと恋人同士だった。そしてそれはずっと続いていたわ。
私と結婚しなくても彼女だと似たような家柄だしつり合いがとれるでしょう?」
何を言ってるんだ? 俺と愛華はとっくの昔に別れた。
関係を続けていたと何故思ったんだ?
それに俺の婚約者は愛華ではない。亜紀だったんだ。
ずっと亜紀だけを俺は待っていたんだ。