結婚してください

「やあ、久しぶりだね。元気そうだね。」


英輔は奥様の肩を抱きしめたまま話しかけてきた。


それって失礼よ。


昔の恋人に対して嫌味でしょ?


でも、残念ながら英輔には未練はないわ。


だって、英輔の前で笑顔で応えられているんですもの。


「ええ、あなたも幸せそうで羨ましいわ。
お子さんが3人もいるそうね。」


「ああ、そうなんだよ。みんな妻に似て可愛いんだよ。」


「是非遊びに来てくださいね。」


信じあっているのね。そんなことが言えるなんて。


愛し合っている夫婦って素敵ね。


素直にそう思えるのだから、私って変だわ。


「ありがとう。」


涙を流すことはもうない。


英輔を見ても笑顔でいられる。


これって伊澤善道のおかげなのかしら?


彼に抱かれたことで今は彼しか目に入らないの?


ああ、会いたい。


もう あれから2週間も会っていないのよ。


私を欲しくないの?


忙しいなんて分かりきった嘘を言うなんて。


そんな私の背後から待ち遠しかった人の声が聞こえてきた。


つい、嬉しくなって振り返った。


あなたの顔を早く見たくて。


なのに、あなたの周りにはたくさんの女性たちがいた。

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