結婚してください
この日、予定通りに婚約披露パーティは行われた。
パーティでは亜紀はまったくの無表情で笑みなどなかった。そんな亜紀の存在が鬱陶しく感じたのだろう、英輔の眉間にシワが寄るのが分かるといつの間にか亜紀は体調不良と控え室へと下がっていった。
使用人に亜紀の部屋を尋ねると俺は亜紀のところへと行く。
部屋のドアを叩いても返事がなかったためそのままドアを開けた。
「善道さん。」
「元気ないね。」
「すいません。ご迷惑かけてしまって。」
今にも泣きそうな顔をしていた亜紀につい同情してしまう。こんな世界だ。気に染まぬ結婚でも受け入れなければならない。俺たちはそう教え込まれ育ってきた。
しかし、亜紀にはそれが納得できないのだろう。そういう家の育ちではないのか?
「もう、メイドできなくなりましたね。」
「君が望むなら契約継続で良いよ? どうする?」
「でも・・・・」
「メイドは無理かもしれないけど。どうだろう? 俺の女にならない?」
意外な言葉に目を見開いて驚いている。これまで見た中で最高に驚いた顔をした。そんなに驚いたら目が飛び出してしまいそうだ。そんな顔に思わず笑ってしまった。
「大丈夫、取って食いやしないよ。名目上の契約を申し出てるだけ。手を出すつもりはないから安心していいよ。
それに、この世界のことをいろいろ教えてあげられるよ、俺なら。
悪い話ではないと思うが。どうだろう? 嫌な英輔の顔を見て過ごしたいと思う?
時には気晴らしにあの屋敷を抜け出て癒しの場が欲しくないか?」
手を出さないと言ったのは、亜紀を繋ぎ止めておくための言い訳に過ぎない。
今のところは、楽しい時間を過ごせればそれで良い。
「英輔に藤沢愛華がいるように、お前に俺がいるだけだ。お前を助けてやれるかもしれないぞ。」
「助ける」と思わず口走ったが、何から助ければ良いのか正直俺には分からない。
ただ、初めて会ったときに亜紀が無意識のうちに口にしていた言葉「助けて」それが気になっていたのは事実だ。