結婚してください

そして、車は伊澤の家へと向かった。


「来たな」


「来ましたよ。その代わり、今夜は少し休ませてください。疲れたので。」


「それは良いが、泊まる気?」


「そのつもりで来ました。明日は朝早くから台所借りても良いですか?」


「それは良いけど、なにするつもり?」


「メイドの仕事ですよ。明日のお楽しみです。」


善道さんは嫌な顔ひとつせずに私の我侭を聞いてくれる。


伊澤の家の客室にその夜は泊めてもらった。私は、部屋を案内されるとそのまま眠ってしまう。


藤堂家では眠れなくて最近では睡眠不足になっていた。


だから、ゆっくり安心して眠るために善道さんの家を訪ねた。


他人の家のほうが寝心地が良いというのも変な話だけど、今の私には藤堂家より伊澤家のほうが居心地は良い。



そして、翌朝、気持ちよく目を覚ますとメイド服に着替え一目散に台所に向かって闊歩する。


「おはようございます!」


事前に善道さんから厨房の責任者には連絡が入っていた為、簡単に台所を使わせてもらえた。


「あの、亜紀様、お手伝い致しますので、雑用はこちらにお任せ下さい!」


「ああ、いいのよ。これは私がやるんだから。あ、それより 食器を出してもらえませんか?」


私は客人扱いな為、使用人たちはその客人に失礼があってはならないと必死に私の手伝いをしてくれる。


ちょっと申し訳なかったかな? なので、少しお手伝いしてもらいながら、朝の食事作りをやっていた。


実はこれ、庶民の朝食を食べてもらおうと善道さんへのサプライズでもあるのだ。


これまでのお礼って言うのもあるし、これから宜しくという気持ちも含まれている。




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