結婚してください
「連れて行け。」
私の体を引っ張ったのは英輔だった。
「やだっ!! 山崎!!!」
「田所!! お前ら何なんだよ!!
アイツをどうしようって言うんだよ!!
そいつを放せ!! 返せよ!」
そして、同行していたSPに車に乗せられてしまった私はそのまま屋敷へと連れ戻された。
「亜紀とは二度と関わるな。アイツとは二度と会うな。いいな。」
「お前何だよ! 田所をどうするつもりだ!!」
「どうもしないよ。彼女は、亜紀は、俺の婚約者なんだ。
これ以上亜紀に近づくならこちらも考えがある。」
そう言うと英輔はもう一台の車に乗り屋敷へと戻っていく。
『婚約者』という言葉に山崎は驚いて足が竦んでしまい、しばらくその場から動けないでいた。
久しぶりに会った懐かしい人。心温まるなか二人だけの時間を楽しんでいた。
ただ、それだけだった。
けれど、それすらも英輔によって壊されてしまった。
屋敷に戻り、私は自分の部屋で反省するように柴崎さんからお説教された。
どんなにお説教されようが、お小言言われようが、私の耳には入っていかなかった。
こんな安らぎのひと時さえも許されないのだと、息の仕方さえ忘れそうになる。
柴崎さんが大きな溜息をつきながら部屋から出て行く。
ドアの外で柴崎さんと英輔が顔を合わせ言葉を交わしていた。
「あまり叱らないで下さい。本人も寂しさからしたことでしょうから。」
「寂しければ何をしても良いのか? 柴崎らしくないセリフだぞ。」
「ですが、最近の亜紀様はかなり臥せっていらっしゃいます。あまり追い詰めるようなことはなさらないほうが良いと思いますよ。英輔様のお為にも。」
「分かっている。」