結婚してください
柴崎さんが何を言いたいのか理解できなかった。
けれど、もしかしたら、英輔は英輔なりに私に対して前向きの気持ちでいるのだろうか?と思ってしまった。
「藤沢愛華様を気にしていらっしゃいますね。あの方は英輔様と同じ境遇で育った同胞のようなものでしょう。特別な感情は持ち合わせていらっしゃらないと思いますよ。」
同胞? そうなのかな? でも、恋人同士なんでしょう? それも高校入学当時からの?
柴崎さんは始終二人を監視しているわけではないから知らないのよ。
あの二人は愛し合っているんだわ。
「この屋敷であの二人が何をしているのか知らないはずないでしょう?」
「そうですね。でも、それでも何もありませんよ。」
何故そこまで言い切れるのか私には分からない。
「パーティへ行ってみませんか? きっと英輔様は喜ばれますよ。
亜紀様がパートナーとして振舞うのを待っていらっしゃるのですから。」
はじめて見る柴崎さんの笑顔。 思わずドキッとしてしまう。
冷酷な人だと思っていたのに、こんな笑顔が出来るんだと驚いてしまう。
けれど、この笑顔は私にではなく英輔のために向けられたもの。それだけ英輔のことを考えてこの人は行動に出るのだと思った。
私が英輔のために考え、動き、サインするのを待っているんだ。
「分かった・・・・パーティへ行きます。」
柴崎さんの笑顔とは全く正反対な私の表情に柴崎さんの笑顔も消えていく。
「亜紀様?」
「行ってきます。」
私が望まなくてもそれが私の取るべき行動ならばそうするしかない。
半分自棄になっている自分がいる。
そして、私がどんなに逃げてもきっとこの柴崎さんは私にサインさせるための行動に出るのだとそう思えた。
私はやっぱり この屋敷では一人なんだと再確認した時だった。