結婚してください
眠る亜紀のベッドの横に椅子を置き、そこで一晩看病することにした。
こんな姿にしてしまい申し訳ない気持ちで苛まれてしまう。
俺はどうすれば良いのだろうか? 婚約を破棄にするのか? しかし、それは出来ない相談だ。これだけは、俺も譲れない。亜紀には悪いが俺は藤堂家の跡取りとしてお前が必要だ。
「やまさき・・・」
亜紀が寝言で呼ぶ名前。 それはあの時の男の名前だ。
亜紀がずっと会いたがっていた男だ。伊澤善道とは意味合いの違う男だ。
この男に会わせれば亜紀はまた元気になるのか?
その夜、柴崎を呼んだ。
「確かに、亜紀様のご友人で毎晩電話をされている相手です。多分、亜紀様の意中の方かと思われますが。」
「その男を明日呼んでくれないか。」
「この屋敷にですか? それはどうかと思いますが。よからぬ噂が立つでしょうし・・・それに・・」
柴崎が言葉を詰まらせた。最後まで言えないのはわかる。納得した上で俺は柴崎に話しているのだ。
「亜紀が元気になればそれで良い。その男を呼んでくれ。」
「分かりました。」
翌日、起き上がれない亜紀の為に部屋へ食事を運ばせたのだが、一切口に入れることはなかった。
「食べないと体に悪い。早く回復したかったら食べるんだ。」
何を言っても亜紀は頭を左右に振るだけ。そして「食欲がない」と良いベッドに横になる。
俺に背を向けて眠ってしまう。
柴崎に頼んでいたあの男がこの屋敷に来たのは午後過ぎていた。
屋敷内の使用人たちの間でも妙な噂が立ち始め「亜紀の男がやってきた」と使用人たちにも知れわたることになる。