第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
ドールはマーシャルの目の前に腰を降ろすと、まず右足を掴んで伸ばした。
少女の顔が恐怖に染まっている、いくら子供でも理解出来たようだ。

ドールは右手で拳を作ると、マーシャルに笑顔を向けた。
其れがより一層マーシャルに恐怖を与えた。


「君は小さいから一撃で良いかな。」


ドールはマーシャルの膝の皿めがけて、拳を落とした。
グチャっという生々しく鈍い音と、マーシャルの焼かれた喉から声にならない叫びが聞こえた。

涙を流して体を激しく動かす、逃げようとしているのだろうか。其れ共唯痛みに悶え苦しんでいるだけなのだろうか。

どっちにしろ俺は、いや俺達は黙って其の情景を見つめていた。
誰1人何も言わず何も感じず、マーシャルの悲鳴、嗚咽、落涙、全てを見て聞いた。

まだ痛みで身を捩(よじ)らせているマーシャルの左足を、ドールは気にもせず掴んで伸ばした。

マーシャルの目が見開かれる。余りに大きく目を開くから、眼球が落ちてしまうのではないかと思ったくらいだ。
マーシャルは必死に手を伸ばして足を守ろうとした。
涙を流して頭が取れそうな勢いで、首を横を振る。

マーシャルの手が邪魔で、膝の皿を打ち砕け無いドールは、自身の右足でマーシャルの左足を押さえ先程まで、足を押さえていた左手でマーシャルの手を拘束した。

身を捩らせ死に物狂いで抜け出そうとするが、ドールの怪力の前では其の行為すら無駄になる。

ドールの拳がマーシャルの左足の膝の皿を打ち砕いた。
また骨の折れる鈍い音が響いた。
マーシャルは酷く滑稽なまでに痛みに震えた。

マーシャルの両膝は骨が完全に潰れており、皮で繋がっているようなものだった。
膝下はありえない方向に向いており、其れはもう動かす事が出来ないという事を明らかにしていた。

痛みで虚ろになったマーシャルを離すと、ドールはまたギフトの左腕に抱き着いた。

床には綺麗な鮮血がマーシャルの膝から水溜りのように広がっていた。
マーシャルは床に倒れたままピクピクと痙攣しながら涙を流している。
時折何かを呟いているようだったが、声の出ない其の言葉は誰も気付かなかった。
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