第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
ギフトは俺達の方へ体を向けると、無駄に歯並びの良い歯を出して微笑んだ。
今のギフトはこの現状が楽しいようで、何時もなら嫌悪するドールの事など、眼中に無い様子だ。
ギフトは右手を腰に当て、今一度心底楽しそうに笑った。


「楽しい、楽しいね。一方的なもの程楽しい事は無いよ。なぁ、そうだろう。」

「そうだよ♥兄さん♥」

「其れは解ったけどよ。如何すんだ?」

「んフフ~。決まってるじゃないか...、最高の“おもてなし”をしてあげるんだよ。
あっちからの貰うべき物は貰ったんだ、ちゃんと返して上げないと失礼だろう。」


一体何を企んでいるんだ...。
本人が楽しそうだから俺は特に言う事も無いのだが、恐らく其の“おもてなし”を貰う側は悲惨な事になるだろうな。

今までに何度かこういう事があったが、仕掛けてきた奴等は全員死んだ。
理由なんて有って無いようなものだ、ギフトがそいつ等を邪魔だと考えた。唯それだけだ。


「で、何をすんだよ?」

「まず何かする前にシヴァルが必要だ。...役者が揃わなくちゃ、つまらなだろう。」

「待つのか。」

「まぁ、そうなるね。気長に待とう。
シヴァルはいずれ戻ってくる。」


俺はディーブを抱いたまま、目に入った椅子に座った。
漸くディーブの機嫌もなった。見るも無惨なマーシャルを見て、ディーブは飽きれた顔をした。
ディーブはギフトを見ると、無表情のまま口を開いた。


「...其れ(マーシャル)ってもつの?」

「え...もたないの!?」

「明らかに出血多量でしょ...。」

「如何しよ...まだ死なれちゃ困るんだよ!!やりたい事あるの!」

「...後、ギフトは大丈夫なの?」

「僕は大丈夫で当たり前だよ。」


背中に刺さっている包丁の事、忘れていないか...ギフトの奴。
痛みを感じないなら仕方が無いと思えば、其れで終わってしまうのだが...。
本人曰く、『後天性無痛無汗症』とか言ってたな...俺には意味が解らなかったが。

解り易く教えてくれとギフトに言った事があるが、あの笑みではぐらかされた。
俺も深くは詮索しなかったけど、執拗に聞き出す事では無いからな。


「じゃ、ディーブ。マーシャルが死なない様に止血でも何でもしてくれない?
まだ少し生きてもらわなくちゃいけないんだよ。」

「別に良いけど...。」


そう言って俺の腕の中から、ディーブは降りてマーシャルの元へ向かった。
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