第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
家に辿り着くと、俺はディーブを部屋に運んでベッドに寝かせた。
こう言う無防備な時は13歳の普通の少年だ。普段髪で隠している左側の顔以外は...。

俺はディーブの部屋から出ると、真っ直ぐ自分の部屋に向かった。
部屋に入るとコートを床へ投げ、ベッドに身を投げた。
...疲れた。今はこの言葉に尽きる。

シヴァルの指を切り落として、マーシャルの胸を滅多刺しにして...。
此処までなら、俺は“疲れた”なんて言わない。
キースとか言う調整局員が俺を女扱いした事が、今回の俺の“疲れた”原因だ。
結局はケビンに変わってもらったわけなのだが...。

其れにしても『不思議の国』か。馬鹿げた名前の殺し屋だ。
お伽噺(おとぎばなし)なんかモチーフにして、何が楽しいのだろうか。
ケビンが以前読んだ事のある本だから、俺も大よそのストーリーは解るが、ガキの妄想の話なんぞよく解らない。

“白兎”ね...。騒がしいキャラクターだった気もするが、どんなキャラクターだったのだろうか。
思い出せない...そもそも俺の体験談ではないからはっきり覚えていないのが当たり前か。

考えたところで俺が解る訳もないが、何故ギフトのPCに“白兎を貰う”なんてメールを送ったのだろうか。
『Sicario』の誰かが狙われているのか。だとしたら誰だ。
白兎なんて呼べる人材は俺の考える限り、居ない気がするのだが...。
法則性がない可能性も無くはない。相手は殺し屋だ、敷かれたレールの上を素直に歩く奴等ではないだろう。

『Sicario』は俺が言うのもあれだが、有名な方の殺し屋だと思う。
俺がそう思っているだけだから、実際は違うのかもしれないが...。
『不思議の国』は俺達と遊ぶ為にわざわざギフトのPCにメールを送ったのだろうか。
其の気になればギフトは『不思議の国』の存在そのものを消しかねないぞ。
命知らずな人間もいたものだ。

俺は面倒臭い事は嫌いだ。
遊びたいのなら素直に出てくればいいものを。
殺し屋が真正面から殺しに来る事は、稀な事だ。
俺は別だが...。
だって殺人鬼だし、連続殺人鬼(シリアルキラー)だし。最後は大量殺人鬼(スプリーキラー)になったけど...。

最終的に、俺は殺せれば其れで構わない。
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