第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
何とか家に帰り着いた俺達は、ドール、俺、女性の順でディーブの治療を受けた。
普通なら女性を優先させるべきだが、状態が状態だ。

ディーブが、嫌悪感丸出しの表情を隠さなかったのは言うまでもない。
ディーブは嫌々ながら俺達3人を自室へ入れた。

ディーブの部屋は13歳とは思えない程本で溢れかえっていた。その本の殆どが、医学に関するものだ。
俺には到底理解できないものばかりだ。
よくよく部屋を見渡すと、ちらほら標本やホルマリン漬けがある。
なんつーもん持ってんだよ。


「セルリア...勝手にきょろきょろしないで。診てあげないよ。」

「なんでそーなんだよ!?」

「...。」


無視か。
仕方が無いディーブはそういう奴だ。出会った当初も、まともな会話なんてしてくれなかった。これでも、まだマシな方だ。

俺はディーブに指定された椅子に座った。ついでに、きょろきょろするなと念を押された。
神経質な奴だ。もっと子供らしくしていれば、可愛げがあるのだが...。


「まずは、ドールからか...」


面倒臭そうにディーブは自身の椅子に座った。
ドールの見るも無惨な左腕に目を遣やる。
我ながら少々やり過ぎたかな...。

左腕の服は血で赤黒く染まっている。ディーブはドールの服を鋏で切り取った。
露になったドールの腕は、皮膚が裂け、骨が砕けて飛び出しており、患部は青紫になっていた。
女性は悲鳴はあげなかったものの、顔色が悪くなった。


「あんたはこっち見てろ。」


俺は女性の顔を両手で掴んで俺の方を向かせた。


「気分悪いーんだろ。」


女性の顔が仄かに赤くなるのが解った。
何故照れるんだ。俺には理解出来なかった。
ディーブはドールの腕を見るなり、眉間にしわを寄せた。


「...よくこれで平然としていられたね。」

「兄さんが傍にいれば、こんなのなんてことないよ〜♥」


へらっとした笑顔でドールはそう言った。
兄弟だからだろうか、笑顔が良く似ている。この笑顔にイラつきを覚えるのは、遺伝か何かのせいだろうか。
不本意ながらギフトがちらつく。


「そういう問題じゃ無いと思うんだけど...。」


ディーブは俺と女性に時間が掛かると一言言い残すと、ドールを連れて奥の部屋に行ってしまった。
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