第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
頭使ったから余計に疲れた気がする。慣れない事はする事ではないな。俺こう言うのはやっぱり向いていない。
疲れているのだから素直に寝よう。

俺は本格的に寝る事にした。何も考えず、あの暗闇へ向かう。
平凡な日常も捨てたものではないな。たまにはこう言うゆっくりとした時間も必要なんだな。
数時間前に人を殺しておいて何言ってんだ、俺は。

俺は暗闇へ堕ちた。
暗闇の中では其処まで疲れを感じる事は無かった。
外にいるより幾分か体が軽い気がする。此処に体なんて無いのだけれどな。

何時もケビンが居る筈なのだが、眠っているのか姿が見えない。
代わりにムッシュが横たわっていた。
ムッシュは俺に気付くと、上体を起こした。


“おめぇと2人でいんのっで、久しぶりだな。”

“そうだな。...お前は相変わらずそうだな”


ムッシュは、相変わらずの訛り具合いで話す。


“おめぇもな。...ワタシおめぇが来でから、外に出れでねぇ。”

“ロクな事しねぇーだろ。”

“やってみんきゃ、わがんねぇ。”


何故か自信あり気にムッシュは断言する。
俺がケビンの人格になったばかりの時も、散々ギャンブルしてただろう。
変なリスクは犯したくない。


“ギャンブルやりてぇだよ。5年はやってねぇだ。このまんまだっだらよ、腕鈍っちまうだ。それだげは避けてぇだよ。ワタシも人間だ、好きに生かしてくんでぇ。”


ムッシュは俺の襟を掴んで訴える。むさ苦しい男なんぞに、顔を迫られても嬉しい事など1つも無い。
確かに軽く5年程は俺が押さえつけていたな。昨日はうっかりムッシュを、目覚めさせてしまったが...。


ムッシュは元からケビンの人格だ。まさか其れが自分を人間と言うとは、唯の人格と思っていたが、人格も立派な人間なのかもしれない。
俺は元が人間だから、唯の人格の気持ちなど考えた事も無かった。
人格は人格であって、人間とは別のものだと思っていた。
違うのか、此奴は、ムッシュは人間なのか。


“外に出しでくんでぇ。ワタシ外の事知りてぇだよ。”

“...余計な事しねぇーなら、別に良いぜ。”

“本当にが!”


ムッシュが嬉しそうに俺の肩を揺さぶる。
頭が揺れる。正直止めて欲しい。
5年ぶりだからな、相当嬉しいだろうな。
3人の人格が居座っている、この体の支配権は大方俺が持っている。
精神内で何故か俺が力を持っている。何故かは、俺にも解らない。
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