第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
side:ナタリア
突然電話が切れて、俺の言葉は口から発せられる事は無かった。
年下の癖に可愛くない奴だ。

少し離れた場所の棚に、薬品を片付けさせているチェルに、声を掛ける。


「チェル~。泊まりに行く準備しろー。」

「何処か行くの?」

「あの『Sicario』だ。全く寿命が縮む話だ。」


義足である右足を摩りながら、俺は悪態の言葉をつく。


「オレも怖いから行きたくないな...。」

「行かないともっと怖い事されそうだ。素直に行くのが妥当だな、こりゃ。」

「ナタリアって押しに弱いよね。」

「薬中に言われたかねぇよ。」


俺は不格好な歩きで、支度をしに部屋へ向かった。
走れないこの体は、早く終わられたい事でさえ長引かせる。
俺将来、ストレスでハゲるかもな...。

そんな事思っていると、薬品をしまい終えたチェルが俺より早く荷物の準備を始めてくれた。


「すまねぇな、何時も。」

「ナタリアはもっとオレを頼ってよ。」

「年下に面倒見られるのは、気が進まなくてな...。」


後頭部を掻きながら、俺はチェルを見た。
本当はお前みたいな重度の薬中に、世話されたくないんだよ。
薬中より駄目な人間みたいだろ。
悲しくなるわ...。


「ナタリア、オレの禁断症状は次何時来るかな?」

「俺が知るかよ。荷物纏めたんならさっさと行くぞ。俺の所為で無駄に時間がかかるからな。」

「オレが支えになるよ。」


そう言ってチェルが俺に肩を貸す。
ありがたさとは反対に、俺は惨めさで涙が溢れそうだった。
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